そぼくな日記

にっき!

本物のジャズとブルージャイアント

最近、知人で「人生で初めて音楽に目覚めた」人がいる。

今まで音楽自体は聞いていたものの、心にズドンと響く経験はなかったらしい。

そんな彼女が友人のバンド演奏を生で聴いて衝撃を受け、音楽の扉の前に立ったのだという。

せっかく音楽に目覚めたからどんどん音楽の扉を開いていきたいという彼女の話を聞いたもう1人の知人は、お気に入りのジャズバンドが居るから聴きに行こうと提案した。

同席していた私もジャズが好きでよく聴いていたが生演奏を聴いたことは無かったので、付いて行くことにした。

 

音楽に目覚めた彼女を扉の向こうに導くため、我々は新宿にある「ピットイン」というライブハウスで知人オススメの「black sheep」というバンドのライブに足を運んだ。

これまでライブハウスには何度か足を運んだ経験はあるものの、ジャズのライブハウスは全く雰囲気が違っていた。

 

ちょ〜〜〜大人だった。

 

そして何故かめちゃくちゃ外国人の観光客が多かった。

何でこんなに外国人が多いのか不思議だったが、ジャズは別に歌詞とか無いから誰でも聞けるのだろうと独り合点した。

 

登場した「black sheep」はピアノ、サックス、トランペットの3人グループだった。

音楽に目覚めた知人は一体どんな演奏なのだろう…と緊張していた。

ピアノの緩やかな演奏が始まり、私も普段耳にするしっとりして大人っぽいジャズが生で流れるのかなと想像しながら待機していた。

 

ところがサックスとトランペットが加わるや否や、今までイメージしていた「ジャズ」のイメージが完全に吹き飛んでしまった。

 

めちゃくちゃ変な音なのだ。

本当にほんっっと〜うに申し訳ないが、第一印象は「でっかいオナラの音」だった。

 

あまりにも変な音すぎて思わず笑ってしまった。こんな音の組み合わせアリか!?と面食らった。

私の聴いていたジャズは水だった。こんなどぶろくみたいなジャズがあるのだ。

 

特にサックスの演奏には色々な意味で耳を奪われた。

もう出てる音が恐竜なのだ。ジュラシックパークで聴いたあの声なのだ。

吹き方ももうこの人の内臓全部出ちゃうんじゃないのってくらい全力投球で吹いていた。

途中からサックスが内臓に見え始めた。こんな経験は初めてだった。

 

誘ってくれた知人は特にこのバンドのトランペットが好きだと言ってたので耳を凝らして聴いてみた。

確かな演奏力、そしてサックスとの悪魔合体で奏でられるオナラの音。

技術があるとこんなにも自由に空を飛べるのか…と感心してしまった。

 

ピアノだけが救いなのか…?と思いきやピアノもめちゃくちゃ暴れていた。

というかピアノがリズム取りの役割も果たしているのでピアノこそが戦犯なのかもしれない。おのれピアノめ。

 

音を文章で表すのは不可能なのだが、イメージ的にはこの絵に近い。めちゃくちゃコレ。

ガイ・ビュッフェ「マティーニ

 

激しいマティーニ(多分どぶろくをシャカシャカしてる)のような演奏が2曲連続で続き、もう私のライフはゼロよ!と思っていたが箸休めなのか、3曲目はゆったりした選曲だった。

 

ゆったりした選曲だったが見たこともない変な形のデッケー大蛇のような楽器が登場して、またもや笑いそうになってしまった。

ジャズってお笑いだったのか?

 

だが、そのデッケー大蛇からは尺八のような渋くてしっとりした音が奏でられた。

この曲には一度もブリブリした音は登場せず、分かりやすく彼らの「腕前の確かさ」を感じさせた(腕前はすごいというのは伝わっていたが)

そんでひとしきり落ち着いた…と思ったら前半の最後は、また容赦のないブリブリ音が振りかざされた。

 

前半が終了し、休憩時間に入ったが、音楽の扉を開いた知人は「本当にごめん」と途中退席してしまった。

気持ちはとてもわかる。音楽の入り口に立った段階の人にあの音は強すぎるのだ。

誘った友人はやっちまった…という感じの顔をしていた。

幸いにも私は「何これオモロ」という気持ちが勝っていたので後半も聴き届けることにした。

 

幸か不幸か、後半は比較的落ち着いた曲が多かった。

これが前半に来ていれば彼女は途中退席しなかっただろうな…と思いつつ、「black sheep」の曲を聴き続けていると、前半があれでなければいけない理由が徐々に分かって来た。

 

ブリブリ音の虜になっている自分がいたのだ。

ゆったりした曲になると「あ〜〜〜〜どこでブリブリしてくれるんだ〜〜〜〜」と物足りなさや歯痒さを感じていた。

この短時間でまさかこんなにやられるとは思わなかった。

前半で心が折れなくて本当に良かった。

 

とは言え、彼らの曲を本当の意味で咀嚼できたわけでは無かった。

音楽って、こういうのもアリなのか!?という衝撃で、私もまた別の扉の前に立ったのだろう。

 

途中退席した彼女は「一曲目で完全に心を骨折してしまった。面白いと思う部分は勿論あったが、1曲目のダメージが癒えなかった」と言っていた。

彼女の音楽の扉はちょっと閉まってしまったかもしれない。

 

 

 

生演奏を聴いた数日後、ちょうど公開されていたジャズアニメ映画の「ブルージャイアント」を観に行った。

全く原作を読んだことは無かったが、先日の生演奏ジャズも相まって興味が高まっていた。

せっかくなので音響もいつもより良い所を選んだ。

 

ハッキリ言って、このタイミングで観て大正解だった。

「ジャズ」というものが一体何なのか、「ジャズ」をする者はどういう気持ちで演奏するのか、先日聴いたあの演奏はどうしてあんな演奏だったのか、全ての伏線(?)が回収された。

伏線が回収されると同時に、私のいる美術畑と共通する風景が見えた。

決して心地の良いものだけを提示しているのではない。

時には人を哲学的迷宮に突き落とすような演奏もアリなのだと。

 

すっかりブルージャイアントにも嵌ってしまった私は、彼氏が予習のために買って来た1〜4巻もすぐに読んでしまった。

最近「ジャズってんな〜」が口癖になってきてしまった。

 

誘ってくれた知人(勿論ブルージャイアントが好き)にも感想を言って、ブルージャイアントを全巻読破したらまたジャズを聴きに行こうと提案した。

今度はどんな曲に出会えるか楽しみだ。